Blueprints of Authoritarianism: Structural Parallels between Trump’s Second-Term Executive Orders and Nazi Totalitarian Policy 権威主義の設計図——トランプ第2期大統領令とナチス全体主義政策の構造的共鳴

 

第1章:命令による統治――「現代の授権法」としての大統領令

――トランプ政権における行政的統制とナチス法制の構造的転用可能性

 

1.1 はじめに:権限集中の歴史的パターン

権威主義体制の成立において、「法の正統性」を帯びた行政命令の乱発は、単なる政治技術ではなく、制度変容の装置として機能してきた。ナチス・ドイツは、ヴァイマル憲法第48条の非常事態条項を濫用することにより、議会を通さず立法を進める「法のかたちをした権威主義」を確立した。そして、1933年3月の「授権法(Ermächtigungsgesetz)」によって、国家社会主義的再編のための立法権ヒトラー内閣に委譲され、議会制民主主義の終焉が制度内部から合法的に果たされた[^1]。

同様の手法が、ドナルド・トランプの第2期政権下でも観察される。2025年1月20日に再び大統領に就任したその日から、トランプは「法的統治」を盾に、大統領令(Executive Order、以下EO)を用いた急速な体制転換を開始した。EO 14148では前政権下の政策のうち68本の大統領令を一括で廃止する指令が出され、EO 14177では連邦教育省そのものの廃止を求める極端な行政再編が行われた。これらは、「行政命令の合法性」という制度上の建前を保持しつつ、法の正義性・合憲性の実質を侵蝕するプロセスである。

1.2 「授権法」の構造とアメリカの大統領令の比較

「授権法」は、議会の承認なしに内閣が法律を制定できるという意味で、立法府の権限を事実上廃止するものであった。条文上は憲法改正を伴わなかったが、実質的には法体系全体を内閣のイデオロギー的目的のために動員するものであった[^2]。

アメリカ合衆国大統領令は、憲法上「行政執行の範囲」に限定されるとされているが、実際には立法的効果を持つものも多く存在する。トランプ政権の大統領令は、特に第2期に入ってから、実質的に「法律の制定」に等しいほどの影響力を持つ。たとえば、EO 14177によって教育行政の基盤そのものを解体し、州の自治体に再分配するという構想は、議会の立法過程を迂回し国家構造に根本的な改変を加えようとする点で、ナチスの授権法的構造と類似している。

1.3 緊急事態の常態化と言説戦略

ナチス政権は、共産主義者による「国家破壊の脅威」やユダヤ人による「文化的退廃」などの言説を用いて、緊急事態を常態化し、その正当化のもとで制度的排除を実行した。ヒトラーは「我々は秩序を回復しようとしているだけだ」と語り、議会の解散や基本権の停止を正当化した[^3]。

トランプ第2期政権でも、移民による「国家侵略」、DEIやジェンダー政策による「常識の破壊」、トランスジェンダーによる「社会秩序の混乱」といったレトリックが用いられた。EO 14169(南部国境における国家非常事態の宣言)はまさにこの戦略の代表例であり、「法律の外」にある“緊急対応”という形式を使って、司法や議会の介入を封じている。

1.4 官僚機構のイデオロギー装置化

ナチス・ドイツにおいては、内務省や法務官僚たちが積極的に体制のイデオロギー的浄化を推進した。特に判事や高級官僚たちは「法律に従う」のではなく「総統の意志に従う」ことが忠誠とされた[^4]。

同様に、トランプ政権のEO群では、省庁そのものがイデオロギー的再教育の道具へと転換されている。EO 14151ではすべての省庁からDEIプログラムが排除され、EO 14168では「性別は生物学的に決定される」という一律の価値判断が、医療・教育・行政記録の全体に適用された。これは、官僚機構が単なる施行機関ではなく、イデオロギーの拡声器へと変質していることを意味する。

1.5 小結:制度の中から生まれる全体主義

重要なのは、これらすべてが制度の「外部」ではなく、「内部」から進行するという点である。ナチスも、そして現代のトランプ政権も、制度を否定するのではなく、“制度を使って制度を殺す”という手法を取っている。すなわち、権威主義的体制は、法を廃するのではなく、法を装って社会的・道徳的構造を再定義する。そこには「命令としての法」があり、「対話なき統治」がある。

次章では、この命令体系がどのように「文化的浄化」へと向かうのかを、DEI政策排除とナチスにおける「退廃芸術」概念の比較を通じて明らかにしていく。

参考文献

Kershaw, I. (2001). ヒトラー 権力の掌握 1889–1936 (川上洸, Trans.). 白水社. (Original work published 1998)

Mommsen, H. (1999). 第三帝国における官僚制 (五十嵐智友, Trans.). ミネルヴァ書房. (Original work published 1981)

Müller, I. (1992). 恐るべき法官たち:ナチスに加担したドイツ司法 (三島憲一, Trans.). 岩波書店. (Original work published 1987)

丸山, 眞男. (1952). 現代政治の思想と行動. 未来社.